オタクがホストとゲイバーに行った話

ざっくりとしたあらすじ

私「ホストとゲイバーに行ってみたい!」

フォロワー「行こ!」

こんなシンプルなやりとりひとつで夜の社会科見学へと繰り出した。



登場人物

私(23) 社会人2年目に突入、知的好奇心旺盛なオタク

フォロワー(24) 新卒、夜職経験アリ、私とは3年ほどの付き合い

キャッチ なんか適当に色々紹介してくれた人

ゲイバーの人 オモロイ

ホスト イケメン回転寿司って感じでほとんど覚えてない



さてこのオタク、大学の頃からホストとゲイバーのどちらも「社会経験の一環としていきたい!」とずっと言っていた。しかし、こちとらオタク。インターネットでイキってはみたものの、ヒヨって結局いけなかったというのが現実である。


自慢できることではないが、オタクインキャ喪女と拗らせ御三家全てを網羅している歴戦の猛者であるうえに、北海道から上京したばかりの田舎者。札幌生まれ札幌育ち、知っている繁華街は札幌すすきの。新宿よりはハードルが低いであろうよく知った街・札幌すすきのをヒヨったくせに、なぜか一山越えて新宿へと踏み入れたのだった。


しかしひとりでは心細い。そのため、どいつもこいつもどこかしらのネジが外れているアカウントのフォロワーに声をかけた。すると、夜職を経験していたフォロワーが付き添いに名乗り出てくれた。

彼女とは何回かホストに行こうと約束をしていたが、互いに都合がつかず有耶無耶になっていたままであった。

聞くところによれば、彼女は数年前に少しだけホストにハマっていたらしい。正直なところ、彼女は私を「なんか奇行、珍発言をするバカ」として観察しているのではないか?などとうっすら感じていたため、私が限界突破(今回の場合はホストに堕ちることを指す)してしまえば面白がって見捨てるのではないかという疑念はあった。しかし、この疼く知的好奇心を止めることは私ですらも不可能であった。


夜の街・新宿というところはこちらからすると未知の世界であり、魔境なのである。知識はほぼない。


私の夜の街・新宿の知識はといえば

ヒプノシスマイクの伊奘冉一二三がいる(刺される)

・警察24時みたいな番組によく出てくる治安の悪そうな場所

・なんかすげえ稼いでる奴がいる(頭の悪い感想)

・明日、私は誰かのカノジョ(以下、明日カノ)地獄章の聖地

・自殺の名所がある

・スカウト狩りがあった

要するに踏み入れたら一貫の""おしまい""だという認識であった。


それにも関わらず、なぜ私は足を踏み入れたのか。答えは簡単だ。


大人気漫画、明日カノの読者だったからである。


広告で見たホスト編から入ってLINE漫画で全巻購入そして読破後、サイコミの広告でせっせとコインを稼ぎ、をのひなお先生のTwitterをフォローし、リアルタイムで更新を待つ模範的なオタクへと変貌した私は、登場人物のしごできホストである楓の巧みな仕事ぶりと、ただの大学生である萌たゃがゆっくりと、しかし確実に堕ちていく様のリアルさに恐怖を感じていた。だが、うっすらと興味はあった。壁の外を見たことがない者が、壁の外の世界を見てみたいと思う心理と似ている。


そして地獄章が完結したと同時に私の知的好奇心の熱量はピークを迎えていた。

果たして自分はホストに行ったらどのようになるのか。と。


結論からいえば、ゲイバーはマジで楽しかった。ホストにハマることはなかった。私は無事生還したのだ。


19:00にフォロワーと新宿で待ち合わせた。

事前に約束した通り、時短営業中のTRAP'から行くことにした。TRAP'とは言わずもがな、明日カノの聖地であった。


スプリングコートでは少し肌寒く感じる夜道を彷徨いながらどうにかたどり着いたTRAP'で席についた。

消毒と検温と署名を済ませたあとに、私は物珍しさに店内を見渡した。入ってすぐの席に腰掛けたため店の全貌を見られることはなかったが、遠くの壁に薄ぼんやりとTRAP'の文字が見えた(これは私の目が悪いだけ)。モニターでは盛大に明日カノに便乗した映像が流れていた。BGMにはYOASOBIがかかっていた。


あまり喋ることはできなかったが、みっこママも実在していた。実際はケンジというらしいが。 


みっこは前日に飲みすぎて二日酔いだったらしく、テンションは低めだった。出勤した時の顔はおばけそのものだったと語っていた。

そして、ボトルを頼んだ後に早速お話を始めた。最初に喋った方の名前は覚えていないが、良い体格の方だったことだけは記しておくことにする。



つまみ代わりの駄菓子を片手に、酒を飲む。

新規であるため出身やフォロワーとの関係性を聞かれるわけであるが、この人たちの凄いのはこちらの答えに対して3倍以上の容量でネタを引き出して喋るのである。なので、コミュニケーションが下手でも安心できた。

フォロワーを含めた3人でお話を楽しんでいると、突然横で飲んでいた別の組の女性がスキップをし披露し始めていた。しかし、スキップとはお世辞にも言い難いその珍妙な動きであったが「できている!」と主張する女性に対して、その場にいた全員が「出来てない!」とヤジを飛ばした。それが少しだけ悔しかったのか、すぐ近くに座っていた私に「じゃあお姉さんはできます?」と絡んできた。お手本に普通のスキップを披露し、彼女もそれに倣ったが何も学んでいないようだった。

私は初めて生でスキップができない人間を目撃した。



そんなふうにわちゃわちゃやっていると、いつのまにかキャストが入れ替わっていた。明日カノでも何度か登場した、従業員のアレンだった。「アタシも二日酔いなのよ〜」などと言いつつ、結構なペースで飲んでいた。


アレンは二日酔いになった理由を「ケンジに飲まされたのよ〜ベロベロ!アタシ今日は飲めない!」などと語ったが、実際はノリノリで飲んでいたらしい。そのうえアレンの財布には2000円しかのこらず、さらに全員がバカスカ飲むので売上金から引いていたらその日良かったはずの売り上げもほとんどすっからかんだと笑っていた。


アレンのエピソードはとても愉快だった。

彼のバースデーで作った30個のおにぎりのうち10個を貪り食べていただとか、まどマギを知っている割にコナンを知らないだとか、禁煙のために処方された薬で幻覚幻聴に悩まされたうえに禁煙失敗……など。

しかし一番面白かったのは、「3Pをしたはいいけど、アタシは使わないはずなのに謎の勃起薬を飲まされたのよね」という話であった。

正直これはその日のMVPでしかなかった。オモロすぎる。そうそうする事がない会話とパワーワードを生で耳にすると、笑いが込み上げるのも当然だった。


そんな話をしていればあっという間に閉店の時間がきた。

正確にいうならば閉店の時間の少し前であったが、とりあえず先に会計を済ませることにした。しかし、店の従業員はメニューの値段を把握していなかったために「これ、いくらだっけ?ごめんなさいね、わかんないのよ」と尋ねあっては笑っていた。

入れたボトルは半年キープできるということであったので、三分の一ほど中身の残ったボトルに名前を書いて保管を頼んだ。

また来てねと名刺をもらった。捨てるならセックスしましょって書いておいてと言われた。

みっこことケンジママとはお話できなかったことが唯一の心残りだったが、また行くのでその時お話できればいいなと思う。



丁寧なお見送りを背に店を出たあと、ろくに地図も見ず「こっちっぽい」などといいながら歌舞伎町へ向かった。道中もなかなか地獄絵図が広がっていた。


私が新宿歌舞伎町に足を踏み入れるのは三度目であった。

一度目は上司の金でうまい日本酒と牡蠣を飲み食いした。

二度目は春用の仕事着を買いに行く途中で通った。

そして、三度目の今回。


二度足を踏み入れた時に抱いた感情はただの恐怖であった。そしてこれはどうでもいいことであるが、下を向いて歩かないと吐瀉物を踏むかもしれない、などということも学習していた。

一度目はチンピラのような男が「権力見せろやゴラァ!!!!!!!」と電話に怒鳴りながら歩いていく様を見かけリアル龍の如くじゃんと打ち震えたうえに、ネズミが目の前を通過。

二度目はホストのキャッチにそこかしこで声をかけられた挙句、やけくそになったそのうちの一人に「来てよ!!!!絶対に幸せにするから!!!!!」などと言われじわったものの、振り返ればこちらはただの獲物でしかないということを肌で実感したからである。

多額の金で得られる幸せの先は地獄であることを私は明日カノで履修していたが故に、余計に警戒心マックスだった。生まれたての子鹿がハリセンボンのようにトゲをむき出して警戒しながら、三度目の正直というべきか、ホストクラブに向かうために新宿歌舞伎町へと向かった。



トイレとATMを探しつつ適当に歩いていると、歌舞伎町のバッティングセンター前でキャッチに捕まった。手慣れたフォロワーが適当に探していると会話してくれた。曰く、ヴィジュアル系、面白さに振り切った系、正統派イケメン系などと店によってさまざまな特徴があるらしいが、とりあえず面白い、あるいは顔のいい男に限界を感じられればなんでもよかった。


用を足し、見つけてくれたATMで金を下ろしている間、彼は店を探してくれていた。字面だけ見ればとても親切な青年であるが、あくまで彼はキャッチであるということを忘れてはいけない。

キャッチが何件かの店に電話をして、行く場所が決まった。こんなコロナ禍でも何件か満席で店があったようだった。明日カノの影響だろうか。


ともあれ、私とフォロワーが行く店は決まった。キャッチが紹介した者であるという旨を伝えると割引になるとかなんとか言っていたが詳しくは覚えていない。


そして、ついに魔境の一角にあるビルの最上階の店へと入った。ついに天国のドアを……と感動する間もなく、はちゃめちゃにでかい声で「ウィーーーーーらっしゃいませーーーーーッッッ!!!!!」と従業員総出で挨拶をされたため、マジでこんなんなんだと笑った。


手洗いとうがいを済ませたあと黒服に案内されて着いた席には、タブレット端末が置かれていた。黒服は操作をしてまずはこの中で気になる3名を選ぶように言った。


ぶっちゃけ誰でも良いのだが、来たからには選んでみたい。ので、顔が好みのホストを選んだ。3人中2名がナンバーのついた者であった。


初回では送り指名という、その日話した中で気に入ったキャストを一人選んでお見送りしてもらうという制度があるため、キャストが数分おきに挨拶にやってきて少しだけお話をする。選んだ3名とは、ほかの男性よりも長くお話が出来るようであった。人の名前と顔を一致させることが苦手な私はほとんど覚えていないが、覚えている範囲で記述していくことにする。



最初はナンバー3の男性であった。初めてのホストでナンバー付きは危険かなと思いつつも、顔が一番好みだったので選んでみた。2.5次元俳優としても活躍する小南光司さんにとてもよく似ていた。

ナンバー3とだけあって、爽やかな青年であった。また、距離感がとても良かった。顔がいいのも相まって人気なのも充分に傾ける。なんで選んでくれたの?と尋ねられたので、嘘がつけない私は「顔」とだけ答えた。


「顔が良ければクズでもいいの?」と返された。この人はクズなのだろうか。


確かにクズ男は好きだがそれは二次元に限った話であり、現実に求めるものではない。私に害のない範囲でのクズは二次元だろうと三次元だろうと確かに面白いが、害のあるクズは別だ。二次元は所詮一生点と線でしかないが、ちゃんと自我を持ち動いて喋る三次元のクズにはなるべく近づきたくない。

クズはコンテンツとして遠目で見ているのが一番楽しいのである。


という厄介な思考回路を言葉にして伝えるには長すぎるし、こちとら今日は初回の姫である。うら若き乙女な姫が脳内を赤裸々にするにはまだ恥じらいがあったので、「いや……」と端的に二文字でまとめた。今思い返せばあまりにも下手なコミュニケーションで涙が出る。

さらに残念なことに私の耳が悪いうえに店内が非常に騒がしいことも相まってか、ラインを交換したことと肌が綺麗だな〜と思ったくらいで他に何を話したかは覚えていない。

フォロワーとフォロワーについたホストはヤれるヤれないで盛り上がっていた。そのホストとはヤれるらしい。手慣れたフォロワーはさすがだなあと感心していると交代を告げられた。



2人目のキャストは、ナンバー5のホストであった。

好きな顔を選んだはずだったのだが、実際に出てきたのはなんだか違った。全く好みのタイプではなくて「はて?こんな人選んだかな私」と考えていると、「写真と違うっしょ?8キロ太ったんだよね〜」などという暴露をしてきた。それでは見覚えがないのも当然であった。

名刺を渡され、「俺と君の記念メモリーを交換しよう」みたいなことを言い始めて笑った。しかし彼は私と記念メモリーを記すための端末を持ってくることを忘れたらしい。さらに私にIDを検索させるという手間をかけさせたものの、存在しないと来た。

令和の大人でLINEをやっていない者を数えた方が早いというのにも関わらず、彼は存在していない。目の前にいる彼は何になるのだろう。霞なのだろうか。

結局、彼のLINEは見つからなかった。送りにしてくれたらLINE教えるから!と言ってきた。別にいらないなと思った。そもそもなんで私が欲がっているいう前提なのだろう。お前の営業だろうが。

営業のチャンスを失ったためか少し元気がなかったものの、オラオラ営業らしいっすけど自分気狂いなんで面白いっすよ(笑)などとアピールを始めた。この仕事を続けるのならばオラオラしてないで痩せた方が売り上げにつながるのではないだろうか。

もちろんそんなことは口に出さず、乾いた笑いをこぼしていると、黒服は交代を告げ次の人がやってきた。


3人目の彼は役職にはついていない普通のキャストであった。経歴は一番浅いが最年長であるらしい。


隣に座った途端にすごく距離を詰めてくるので若干のけぞっていたものの、そんなことは気にもかけず、ずっと喋っていた。

「俺、がっついていい?でもがっつくのは俺の営業スタイルじゃないんだ」などとワタワタひとりでなんだか言っていたので「やりやすい方でどうぞ」と返すと、じゃあがっつくともがっつかないとも言わず、曖昧なままに会話が進んだ。


彼もまた顔で選んだホストであったので、何故ピックアップで選んだのかと尋ねられてすぐに「顔」と返した。誰かに似ているわけではないが、顔が好みだった。という旨を伝えると、「俺、顔で指名されたの初めて!嬉しい!」と喜ばれた。



ところで私は顔の好みには非常にうるさい。あまりにも面食いが過ぎることは、喪女を続けている要因の一つだ。


原因としては、もう疎遠ではあるが私の幼馴染の顔が非常に良かったからである。私の顔の好みは間違いなく彼が多大な影響を与えている。物心つく前から綺麗な顔とべったり過ごしてしまったがために、かっこいいと思う顔面のレベルが上がってしまっているのだ。

ちなみに世界一好きな顔は2.5次元俳優の和田琢磨さんだ。和田琢磨さんはなんというか、元来の整った顔立ちに加えて人の良さが滲み出ている。そしてどの角度から見ても作画の崩壊がない、個人的には各パーツの造形といい配置といいすべてにおいてパーフェクトな顔立ちなのだ。

彼の他には荒牧慶彦さん、小池徹平さん、塩野瑛久さん、吉沢亮さん、声優の梅原裕一郎さん、活動終了したバンド・NICO Touches the Wallsのボーカル光村龍哉さんなど。ジャニオタだった過去には松本潤さんや手越祐也さん、錦戸亮さんの顔が好きだった。

調味料で例えると何に当たるのかは不明だが、自分はおそらく目がぱっちりしていてパーツの配置のバランスが良ければいいのだと思う。それで、可愛らしい顔ではあるがちゃんと男性的な顔が好き。知らんけど。

交際及び結婚をするということは顔の好みとはまた別の話であるが、興味の入り口はやはり顔だと思っている。



閑話休題

さて、この彼である。顔で選ばれたことはないと言っていたが、まあ嘘だろうなと思いつつ聞き流していた。


どんな顔の系統が好き?ジャニーズ?韓国系?との質問に正直な私は「ジュノンかな……」と答えたくなったものの提示されたのは2択であったため、ジャニーズと答えた。

すると、「俺ね、大野くんが好きだったの!」という告白と、店に入った理由を教えてくれた。


曰く、この店では他の店とは違いオリジナルの歌やダンスのパフォーマンスがあるらしい。それに対して魅力を感じたのだという。


いまではすっかり二次元及び2.5次元のオタクである私にも、ジャニーズが好きだった過去がある。ちょうど嵐が10周年を迎えた頃で、当時は大野くんのオタクだった。魔王の大野くんのビジュアルが一番好きだ。しかし、ジャニーズを上がった現在のタイプの顔は松本潤。まさしく原点回帰である。

私は花男松本潤のオタクになったものの、数週間ほどして夢に出てきた大野くんがめちゃくちゃかっこよかったという非常にしょうもない理由で推し変をしたため、推しと交際相手は違う!みたいな理論?現象?を嵐というグループ内で立証していた。

しかしちゃんとファンはやっていた。幼いながらに、大野くんのあのテレビの画面越しで見るゆるゆるの様相と、ライブでの歌やダンスのときのギャップに胸を打たれていた。あれが萌えだったのかもしれぬ。


などという隙在自語はもちろん省き、シンプルに「私も大昔に大野くん好きでしたよ」と告げると、とても喜ばれた。わ〜共通点あって嬉しいなと。なるほどそういう営業ね……。と、共感することにより親近感を持たせるような営業に感心していると、大野くんのファンがいて嬉しいです!文通しません?と斜め上からの提案をされた。混乱しつつ詳細を尋ねれば、「手書きの文字の方が気持ちが伝わりやすい」と、まあその辺に転がっていそうな理由を挙げた。

そして「手紙送るから住所を教えて!」ときた。もう訳分からん。戸惑っていると、「大野くんもデジタルよりは文通が好きだと思うんですよね!」とたたみかけてきた。


いや知らんし、そもそも私は遥か昔に大野くんのオタク上がってるし、アンタは大野くんの何???


勢いで喋ってくるのでこちらも非常に引き気味で話を聞いていた。時たま交わされるボディタッチに対し流石だなあと妙に冷静な目で見ていた。


住所は流石に躊躇われたため、結局LINEを教えた。なるほど、先にハードルの高いもので戸惑わせた後にLINEを提示すれば「LINEくらいなら……」となる心理を利用したのかもしれない。そうなると、私はこの作戦にまんまと引っかかったこととなる。


しかしここまで書いていると、この彼は共感や突飛な提案を先にしてハードルを下げると受け入れられやすいなどといったアイスブレイクには有効的な心理学を駆使して攻略してきているという印象を抱く。天然でやっているのか意図的にやっているのかはわからないが、どちらにしても恐ろしい。


彼と、ついでに最初にラインを交換した人にもボーボボのスタンプを返しておいた。席で縮み上がっていた女が、ドンパッチのトンチキスタンプを送りつけてきたときの心情を伺えるものなら伺いたい。



4人目以降の記憶はない。

会話の内容は朧げに覚えているが、誰とどんな話したとかまでは覚えていない。


記憶にあることはといえば、僕が代表ですとテーブルについた方に「おめでとうございます」と訳のわからん返しをしたり、LINEのアイコンについて突っ込まれてみたりした。ジェンダーレス系の男の子や、初回にはつきたくないのかな〜という態度の男性等。シンプルに話が下手なホストももちろんいた。あと、めちゃくちゃうるさい3人組。フォロワーもほろ酔い気味でなかなかカオスな空間が出来上がっていた。


これは余談ではあるが、数回お手洗いへと行った。面白いのが毎回おしぼりを持って立っているのである。これも明日カノで見たな!と既視感を感じつつ、実際遭遇してみると、用を足した後に誰かが立っているという状況は少しギョッとするものがあった。



その日にいたキャストが一周したところで、それでは送り指名を選んでくださいと黒服がやってきた。

1人目のナンバー3と、3人目の男で悩んだものの、なんとなく3人目を選ぶと本格的にたたみかけられるような営業がきそうな気がしたので、太い客がたくさんいそうな1人目を選んだ。あまりのカオスに疲弊したため、あっさりと終わりたかったのである。あと、顔が一番タイプだった。


再び顔を出した1人目のキャストに「送り指名ありがとう、なんで選んでくれたの?」と聞かれたので、迷いなく「顔」と答えた。


その正直な答えに若干苦笑いしつつ、彼もまた営業を仕掛けてきた。


「今日、いろんな人にラインを聞かれたと思う。正直にいえばこのまま帰っちゃえばそのあとは君の取り合いになるんだけど、うちの店は永久指名制だから、君が今から俺を指名して延長してくれればずっと2人だけの空間を築くことができるんだ。俺も君のことをもっと知りたいからさ……どう?17000円くらいなんだけど……」


みたいなことをモチャモチャと言っていた。


後日の話であると思い適当に傾いてしまったものの、途中でハッとして「あ、今日の話なら大丈夫です」と断った。一刻も早く帰りたかったのと、こんな繊維にすらなる気がない、ただの「夜の社会科見学」と称し知的好奇心の赴くままに冷やかしにきただけの客がナンバー3の彼からしたら端金でしかないような料金で引き止めるのも申し訳ない。その時間で他の姫に貢いでもらってほしい。貧困の私からはジャンプしたって何も出ない。


そして、私の読み通り「そっか、またきてくれると嬉しいな」と食い下がることなくあっさりと営業を終えてくれたところで帰る時間となった。さすがナンバー3、完璧な引き際である。


送りのホストを斜め後ろに従えて、現実という名の出口へ早足で歩いていると、突然ぐいっと肩を掴まれて引き寄せられた。なんだ?と思っていたら他の姫かホストかはわからんが、誰かがすれ違った。ぶつかるような距離でもなかったが、自然とそういうことをするのである。

これは確かに、惚れるやつは惚れる。


さまざまなタイプのキャストの方と挨拶をして感じたのは、やはりというべきか明日カノの楓のようなしごできは滅多にいないもんなのだなあと思った。私は楓のあのしごできっぷりに毎回限界を迎えていたために、少し拍子抜けした。自分は確実にハマるタイプだと思っていたが、無事生還できた。


今回付き添いで来てくれたフォロワーの他に、現役のホス狂(昼職、夜職はやっていない)、元ホス狂(泡までやったらしい元エース、呪術廻戦の五条悟にハマって担当を上がった)がタイムラインに出揃っていたために自分もその世界に身を投じてしまうかもしれないと怯えていたが、杞憂で終わってほっとしている。

色恋営業もなく、もはや緊張と戸惑いで疲弊した私がフォロワーとホストに介護されたような状態であった。


TRAP’を含めてろくに食べ物も胃に入れず結構な量を飲んだものの、頭の中は妙にスッキリしていた。酔っ払う事なく無事に歌舞伎町を後にした。

あと少し飲んだらへべれけになると言っているフォロワーが甘えてきたため腕を組み、彼女に寂しいんで今からホテル行って2人でやりましょうよなどという提案を適当にかわしつつ、勝手に喋ってくる彼女の赤裸々な性事情を聞き流していると途中で変なナンパが引っ付いてくる、なんてことがあったもののなんとか無事だった。


解散後にフォロワーがいなかったら間が持たなかったと付き添ってくれたことに対してのお礼も兼ねて言うと、おそらく一緒にいたのが私じゃなかったらもっとしっとり落ち着いて飲めると思うよと返ってきた。そういうものなのだろうか。

もしまた踏み入れるような事があれば、次は色恋営業を体験して限界を迎えてみたいなと思った。これは自ら破滅に向かう生き急ぎオタクの本能であるから仕方ない。




ともあれ、私は無事に魔境・夜の新宿から無事に生還した。これからLINEで営業が始まるのかもしれないが、ほどほどに面白がる程度にしておきたい。

うっかり流されてうっかりまた来店する事がないようにしたいと思う。貧困なので。